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ご利用者の皆さまへ

「女性と労働法」は、働く女性をテーマとした小説を労働法か
ら読んでみましょう
というものです。その内容は、ご利用者に対しいかなる意味においても、アドバイス
や特定の行動の推奨・禁止等を行うものではありません。
あくまで小説としてお楽しみください。
 シリーズ第1作目は、琴美さんを主人公とする『パート保育士 琴美』です。
本シリーズはノンフィクションです。登場する人物、団体等は、当事務所及びパートナー
の関与先企業様とは一切関係ありません。
 なお、人事・労務管理に関する具体的なご相談につきましては、
労務管理からお申し込みいただきますよう、お願いいたします。
パート保育士 琴美 〜 天使に包まれて 〜
著者:吉川 真生(よかわ まさき)

ナーサリー10 母性健康管理の措置のお話

 「遅れてすみません・・・・・・。」
 「チョッとお。どうしたの。顔色が悪いじゃない。」裕子先生が、心配そうに琴美さんの顔を覗きます。
 「はあ〜。バスの中で。隣に立っていたOLの香水がキツくて・・・・・・。途中で降りちゃったもので。すみませんでした・・・。」青白い顔の琴美さんが、気分悪そうに答えます。
 「大丈夫なの?つわり重いの?お医者さんからの指示はないの?」
 「はい。特に・・・・・・。」
 「そお。う〜ん・・・でも。その顔色は心配だわ。とりあえず今日は、事務所の業務をしてもらおうかしら。いい。気分が悪くなったら、がんばらずに言いなさい。」
 「はい。ご心配おかけして申し訳ありません。」

  「ことみせんせい、いない。いただきますだから、よんでくる。」給食の時間。さとしくんが琴美さんを呼びに行こうとします。
 「さとしくん。琴美先生は、事務所でお当番の日なの。麻里先生たちといただきますしましょうね。」琴美先生の代わりに園児と給食を食べることになった麻里先生。さとしくんをイスに座らせながら、やさしい笑顔を向けます。
 「ぼく・・・おはなししたかったのにな。」大スキな琴美さんとの給食を楽しみにしていたさとしくん。ちょっぴり残念顔です。
 「皆んな〜。ちゃんと座りましたか〜。」いただきます当番の圭吾先生の声が響きます。
 「ハ〜イ。」圭吾先生の声に負けずと、園児たちが元気よく答えます。
 「お隣のお友達も、ちゃんと座っていますか〜。」
 「ハ〜イ。」
 「はい。皆んな、ちゃんと座ったようなので。いただきますの歌を歌いま〜す。イチ・ニ・ハイ。」
 「たいようがいっぱい。やさいさん♪♪♪」

 「お疲れさまでした。琴美先生、大丈夫ですか。」タイムカードを打刻しながら、圭吾先生が尋ねます。
 「ええ・・・今は・・・・・・。今日は、本当にすみませんでした。なんか、役立たずでしたよね。」
 「気にしなくていいですよ。それより、お医者さんにはバスが混んでいるとか、仕事の内容とか、ちゃんとお話していますか。
 「いえ。そこまでは・・・・・・。」
 「ちゃんと話したほうがいいですよ。お医者さんは千里眼というわけではないですから。実は、ウチのも通勤中に気分が悪くなって・・・・・・。」圭吾先生の奥さんもつわりが重く、ニオイに敏感に反応。特に、満員電車の入り混じったニオイが苦手。通勤電車が、どんなに混んでいるかを主治医の先生に説明し、時差出勤するよう指導されていました。
 「そうですよね・・・。説明しないとわからないことって・・・・・・ありますよね。ありがとうございます。ちゃんと説明してみます。」

 「どお。つわりは相変わらず?」
 「裕子先生、お疲れさまでした。そのことで、相談したいと思っていたところで・・・・・・。今、時間いいですか。」
 「いいわよ。なあに。」
 琴美さんにとって、初めての妊娠。圭吾先生のアドバイスを聞くまでは、通勤や仕事の状況を詳しく説明するなんて、思いつきもしませんでした。
 主治医の先生は出産のプロだし、何かあったら教えてくれるはず・・・そんな風に思っていました。でも、圭吾先生のいうとおり。主治医の先生は、決して千里眼というわけではありません。ちゃんと教えてもらわなければ、妊婦さんの通勤や仕事の状況のことまで把握できるはずがありません。
 主治医の先生にはじめて、通勤にバスを使っていること、そのバスがとても混んでいること等を説明し、指導を受けてきました。
 「・・・・・・というわけで、通勤ラッシュを避けて、時差出勤するように言われたんですけど・・・。そういうこと・・・できますか・・・・・・。」恐る恐る裕子先生に尋ねる琴美さん。
 「それなら、大丈夫よ。他の先生方の前例もあるし。始業時刻を1時間遅くする?

 「はい。そうしていただければ・・・。」
 「ただし、始業時刻を遅らせた1時間分のお給料は減るけど。
 「はい。働く時間が、1時間少なくなるんですから。構いません。」当然です!ッという思いを込めて、琴美さんが答えます。
 「そお。じゃあ、園長先生に報告しとくわね。それにしても・・・そこまでニオイに敏感だと、食いしん坊の琴美先生にはツライものがあるわね。」
 「ヒド〜い!!」裕子先生の言葉に、まん丸の頬を更にふくらませる琴美さんでした。

『パート保育士 琴美』を労働法から読むとどうなる? 社会保険労務士  山口 由里子
 
 本コーナー「労働法から読むとどうなる?」の内容は、執筆時点における法令その他に基づいて作成しております。したがって、法律の改正や新判例等により正確でなくなる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
 なお、執筆時は、本コーナーの最後に作成日として標記されます。

母性健康管理の措置  

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「男女雇用機会均等法」といいます。)第22条では、「事業主は、女性労働者が、母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。」旨が規定されています。
 また、同法第23条では、健康診査等に基づく主治医等の指導事項を守ることができるようにするために、事業主さんは、勤務時間の変更等の措置を講じることが義務づけられています。

 
お医者さんにはバスが混んでいるとか、仕事の内容とか、ちゃんとお話していますか。
ちゃんと教えてもらわなければ、妊婦さんの通勤や仕事の状況のことまで把握できるはずがありません。
 妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(以下、「指針」といいます。)では、「妊娠中の女性労働者から、医師又は助産師から指導を受けた旨の申出があった場合」に、事業主さんが必要な措置を講ずることを原則としています。
 ただし、今回のお話にもありましたとおり、医師は千里眼ではありません。事業所の始業時刻や女性労働者の住んでいる場所等によって異なる通勤事情までを把握し、的確な指導をすることは難しいと思われます。
 これに関して行政解釈では、「医師等は妊娠中の女性労働者が通勤に利用する交通機関の混雑状況を知り得ないため、通勤緩和が必要であるという指導がなされない場合があることを考慮し、事業主は、女性労働者から通勤緩和の措置の申出があったときは、その通勤事情を勘案し、適切な対応を図る必要がある」としています。
 適切な対応として、次が例示されています。
(1)
女性労働者を介して、主治医等と連絡を取り、判断を求める。
(2)
事業所内の産業医、保健師等の産業保健スタッフに相談し、判断を求める。
(3)
機会均等推進責任者へ相談し、判断を求める。
(4)
直ちに通勤緩和に関する措置を講じる。
以上の対応に加え、妊娠の報告があった女性労働者に対して、あらかじめ、主治医等に通勤事情を説明するよう指導する等、先手の労務管理が必要かもしれません。
 
通勤ラッシュを避けて、時差出勤するように言われたんですけど・・・。
 指針では、女性労働者から、医師等により通勤緩和の指導を受けた旨の申出があった場合は、時差通勤、勤務時間の短縮等の必要な措置を講ずることとされています。
 時差通勤、勤務時間の短縮等の「等」には、交通手段や通勤経路の変更が含まれます。
 医師等の指導を的確に把握するために、また、言った言わないのトラブルを避けるためにも、『母性健康管理指導事項連絡カード』を上手に利用する等の工夫も必要かもしれません。
 
始業時刻を1時間遅くする?
 行政解釈では、時差出勤は、「交通機関等の混雑を避けるために、必要かつ充分なものを行うこと」とされています。
 具体例として、始業時刻及び終業時刻に各々30分〜60分程度の時間差を設けることや、フレックスタイム制度の適用が挙げられています。
 例は、あくまで目安です。女性労働者が利用する交通機関や通勤時間帯によっては、始業時刻又は終業時刻のどちらかを変更すれば足りることも考えられるでしょう。
 
始業時刻を遅らせた1時間分のお給料は減るけど。
働く時間が、1時間少なくなるんですから。

 男女雇用機会均等法第23条では、医師等の指導事項を守ることができるようにするために、必要な措置を講じることが事業主さんに義務づけられていますが、その結果、不就労となった時間(又は日)の賃金支払までは義務づけられていません。
 不就労の時間(又は日)の賃金支払については、具体的には就業規則等の定めによります。
 有給とした場合、措置の対象となる女性労働者は、不就労の時間(又は日)によって収入が不安定となることはありませんが、その不就労の時間(又は日)をフォローしている他の労働者には不公平感が残るかもしれません。
 無給とした場合、不就労の時間(又は日)によって収入が不安定となるため、必要であっても申出をしない女性労働者が発生する恐れがありますが、他の労働者の不公平感は解消されるかもしれません。
 有給とするか、無給とするかの答えは、事業所により異なってくるでしょう。
 
 初めての妊娠の場合、妊娠による身体の変化という未知の体験にとまどう女性労働者が多いようです。わかっていたつもりの自分の身体が思うようにならない不安もあるかもしれません。
 そんな初めての妊娠。最初の難関は、「つわり」ではないでしょうか。症状は実に様々で、全く平気!という方もいらっしゃれば、入院加療が必要なほど重い方もいらっしゃいます。妊娠悪阻ですね。働き続けたいと思っていた気持ちが、もうどうでもいい!となってしまうのは、こんな時かもしれません。
 琴美さんのように周囲の気づかいを素直に受け入れ、ムリをしない。そんな自然さも大切かもしれません。
 

作成:平成17年11月29日

 
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 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
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