「どうしてもダメですか・・・。私、パートだし・・・。体重測定しなくても・・・・・・。」 年に1度の定期健康診断の時期がやってきました。ぽっちゃり体型を気にしている琴美さん、ムダな抵抗を試みます。 「なあに、バカなことを言っているのッ!体重測定にパートも正職員もないでしょ。・・・・・・ったく。」主任保育士の裕子先生があきれたように言います。
「裕子先生、いいですか。」園長先生が呼んでいます。 「こちら、見学にいらした持田沙枝さん。産休明けからの入園を希望されています。」持田さんは百貨店勤務。いかにも、仕事のできる女という感じです。 「ここの保育園は冷凍母乳にも対応してもらえるって聞いたから、希望しようと思っていたけど・・・。ねえ。あの保育士さん大丈夫?パートなんでしょ。」 「気にすることないわよ。ちょっと、ここ生2つ追加ッ!」裕子先生にしては珍しく、語気を荒げます。 「そりゃあ、琴美先生はオッチョコチョイだし、まだまだ半人前だけど、見学に来たお母さんに言われたくないって言うの。」後輩想いの裕子先生。持田さんの言葉に落ち込む琴美さんを励まそうと、飲みに誘いました。 「まったく、同じ働く女性が、働く女性を偏見で判断するなって言うのッ!」持田さんのパートなんでしょ発言がよほど悔しかったのでしょう。裕子先生のピッチが上がります。 「生もう2つ追加!!」 無理もありません。保育園にお子さんを預けるお母さん方から、パート保育士の増加は子供の環境悪化につながると言われることも少なくありません。お昼寝の時間や長さ、眠るときのクセ、持病の有無や対処法など、子供たちの細かいことに心配りをしているパート保育士を毎日見ている裕子先生にとっては、許せない発言だったのでしょう。 「パート保育士を見下したような言い方して・・・。琴美先生、一人前の保育士になるのよ。ううん。私が絶対に成長させるわッ!!」 「裕子先生、ありがとうございます。私、必ず成長します。」パートなんでしょ発言を自分のことのように怒ってくれた裕子先生を見ているうちに、琴美さんにもプロ意識が芽生えたようです。
「裕子先生、それ私の健診結果。何しているんですか?」琴美さんが、裕子先生から健診結果を奪います。 「何って、健康診断個人票を作っているのよ。あと琴美先生で終わりなんだから、早く返しなさい。」 「そんな・・・。個人票なんて、ヤメテください。」琴美さんも必死です。 「また、訳のわからないことを・・・。健康診断個人票の作成は法律で義務づけられていることなの。健康診断個人票を作成して5年間保存しないと法律違反になってしまうの。」 「そんなぁ〜!そんなぁぁぁ〜!!園で働き始めてから3キロも太っちゃったのに・・・。」例のパートなんでしょ事件で、定期健康診断の前日に思いっきり飲んでしまった琴美さん。飲んだ結果が体重に反映してしまったようです。 「あら、さっそく成長したみたいネ。琴美せ・ん・せ・い。」もう、裕子先生のいじわる・・・と心の中でつぶやく琴美さんでした。
「定期健康診断」は、労働安全衛生規則第44条に規定されています。ポイントは次のとおりです。
実施義務者 事業主
( 1)既往歴および業務の調査 ( 2)自覚症状および他覚症状の有無の検査 ( 3)身長、体重、視力および聴力の検査 ( 4)胸部エックス線検査および喀痰検査 ( 5)血圧の測定 ( 6)貧血検査 ( 7)肝機能検査 ( 8)血中脂質検査 ( 9)血糖検査 (10)尿検査 (11)心電図検査
では、琴美さんは定期健康診断の対象となるでしょうか。 琴美さんは、雇用期間の定めのない契約です。琴美さんの1週間の所定労働時間は32時間(1日8時間 × 4日勤務。詳しくは、第1回にある琴美さんの労働条件をご覧ください。)。たいよう保育園の正職員の1週間の所定労働時間は40時間(法定労働時間と同じですね。)。したがって、琴美さんは定期健康診断の対象となります。 よく、「パートだから***しなくてもいいだろう。」という事業主さんや、「パートなのに、***しなくてはいけないのですか。」というパートさんがいますが、パートという理由だけで、差別や区別をしている法律は、まずありません。ほとんどの場合は、1週間の所定労働時間や勤続年数などで判断されています。
健康診断個人票の作成は法律で義務づけられていることなの 健康診断個人票を作成して5年間保存しないと法律違反になってしまうの 健康診断個人票の作成および保存は、労働安全衛生規則第51条で義務づけられています。保存期間は5年間です。
その他、健康診断の結果を労働者に通知することや、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署に届け出ること(常時50人以上の労働者を使用する事業主さんに限られます。この場合の「常時50人以上の労働者を使用する」は、前記の「常時使用される」の解釈とは異なり、ときには50人未満となることがあっても、50人以上使用することが常態である場合をいいます。)などが事業主さんに義務づけられています。(労働安全衛生法第66条の6)(労働安全衛生規則第52条)
自分の体重を知られたくないという琴美さんの乙女心(?)もわかりますが、健康診断の実施の事務に従事した人に対しては、秘密を守る義務が課せられています。 (労働安全衛生法第104条) また、労働者についても、健康診断を受診する義務(一部の例外を除きます。)はもちろんのこと、健康診断の結果や保健指導を利用して、健康を保つよう努力することが規定されています。(労働安全衛生法第66条第5項)(労働安全衛生法第66条の7)
やはり、きちんと定期健康診断を受診して、自己の健康を管理することは、社会人としての常識ではないのでしょうか。
作成:平成16年7月10日