「もえちゃん、ただいま。裕子先生、ありがとうございました。」 夕方の5時50分。お母さん方のお迎えラッシュの時間です。大好きなお母さんの声に、もえちゃんの顔もパッと輝きます。それまで夢中になっていた絵本を片付けて、お母さんに駆け寄ります。 「もえちゃのお母さん、先日ご説明いたしました送迎カードを明日から実施します。ご協力のほど、よろしくお願いします。」 「ええ。子供の安全のためですものね。こちらこそ、よろしくお願いします。」 「裕子先生、おはようございます!今日から送迎カードですよね。」タイムカードを打刻しながら、琴美さんが尋ねます。 「そうそう。初めは不満に感じるお母さんもいらっしゃると思うから、フォローよろしくね。」 たいよう保育園では、お迎えに細心の注意を払っています。保護者以外の方に引き渡さないのは当たり前。たとえ身内であっても、いつものお迎えの方でない場合は、慎重に対応しています。たとえば、お子さんの親権を争っている元ご主人が勝手に・・・・・・ということも考えられるからです。先日の職員会議で、送迎カードをお持ちでないお迎えの方には、保護者の方の確認が取れない限り、園児を引き渡さないことに決まりました。これも、園児たちの安全を考えての決定です。 「でも・・・ちょっと厳しすぎません?」 「もお。始める前から文句ばかり言わないのッ!」裕子先生の言うとおりです。否定ばかり、始めない理由探しなら、誰でもできます。 「すみませんでした。お母さん方のフォローがんばります。」 「できたあ〜!ことみせんせい、おはなができたの。ゆみにもできたの。」 「ほんとう。きれいなお花ね。ちょうちょさんも大喜びしそうね。」園児は、仲良しさんができることを自分もできるようになりたいと思ったりします。ゆみちゃんも、仲良しのさよちゃんの作るお花にあこがれていたのでしょう。 「あっ、きんぐだあ。きんぐ〜。」突然、ゆみちゃんが見知らぬご老人に向かって走り出しました。 「ちょっと。・・・ゆみちゃん・・・・・・。」な、なんなの?キングって・・・・・・何者?やさしそうな・・・変質者・・・。私ったら、何バカなことを。とにかく、ゆみちゃんを守らないとッ! 「ゆみちゃん、待ってェ〜!!」ゆみちゃんを追いかけようとする琴美さん。ガッシャ〜ン!!慌てて積み木に突っ込んでしまいました。 「痛ぁ・・・。裕子先生〜!!ゆみちゃんを助けてくださぁ〜い!!」 「えっ!?ゆみちゃんのおじいさん・・・・・・。」裕子先生の説明に、全身の力が抜けていく琴美さん。 「そんなあ。だって。キングなんて言うから・・・。普通、おじいさんのことをキングなんて呼ばないですよ。」 「まあ、そうね。今日は、お母さんの代わりにお迎えにいらしたみたいよ。送迎カードもお持ちだったし。」 なんと、キングの正体はゆみちゃんのおじいさまでした。それにしても、人騒がせな呼び方です。 「裕子先生、消毒薬どこですか。」もお〜。安心したのか、頭にきたのか、自分でもよくわからないじゃないの。とにかく。足が痛い。あの時だわ。積み木に突っ込んだ時に擦りむいたんだわ。ヤダ・・・血が出ている・・・・・・。 「あらあら、派手に転びましたね。消毒薬は事務所の救急箱の中ですよ。琴美先生、ご存知なかったですか。」琴美先生の武勇伝(?)を聞いて、園長先生が様子を見に来られました。 「裕子先生、先生方全員に救急箱の場所をお知らせしておいてくださいね。それと、中身のチェックもお願いします。これは私の勘ですけど、ゆみちゃんのおじいさまは、まだおじいちゃんって呼ばれたくなかったのではないかしら。」園長先生のおっしゃるとおりかもしれません。ブルーのポケットチーフがとってもおしゃれでした。 「そうかあ、目の肥やしになる素敵な方でしたものね。」得意げに言う琴美さん。 「それを言うなら、目の保養でしょ。」あきれたように、琴美さんを見つめる裕子先生でした。
救急用具は、労働安全衛生規則第633条・634条に規定されています。
裕子先生、消毒薬どこですか 労働安全衛生規則第634条では、少なくとも、次の救急用具を備え付けることを事業主さんに義務づけています (1)包帯、ピンセットおよび消毒薬 (2)高熱物体を取り扱う作業場その他火傷のおそれのある作業場については、火傷薬 (3)重傷者を生ずるおそれのある作業場については、止血帯、副木、担架など 裕子先生、先生方全員に救急箱の場所をお知らせしておいてくださいね 労働安全衛生規則第633条第1項では、負傷者の手当に必要な救急用具および材料を備え、その備付け場所および使用方法を従業員に周知することを事業主さんに義務づけています。
中身のチェックもお願いします 労働安全衛生規則第633条第2項では、救急用具および材料を清潔に保つことを事業主さんに義務づけています。 ほとんどの職場に救急箱が設置されていると思いますが、その中身を定期的にチェックしている職場は少ないのではないでしょうか。 救急用具は、備え付けるだけではなく、清潔に保つことも義務づけられています。まあ、考えてみれば当然のことです。ホコリだらけのピンセットでキズの手当をしたら化膿してしまった…というのではシャレになりませんから。 また、救急用具の備えは万全だが、その場所を知っているのは限られた従業員だけというのでは意味がありません。いざという時に、誰でも適切な処置のできるよう、設置場所と使用方法を従業員にお知らせすることも必要です。 今回のお話にある救急用具は、雇用されている従業員の安全と衛生のために、事業主さんに義務づけられているものです。したがって、その業種によっては、利用者のために備え付けが必要な救急用具もあるでしょう。たとえば、保育園の場合は、園児が発熱した時のために体温計や毛布の備え付けが必要かもしれませんね。
作成:平成16年10月13日