ご利用者の皆さまへ 「女性と労働法」は、働く女性をテーマとした小説を労働法から読んでみましょう というものです。その内容は、ご利用者に対しいかなる意味においても、アドバイス や特定の行動の推奨・禁止等を行うものではありません。 あくまで小説としてお楽しみください。 シリーズ第1作目は、琴美さんを主人公とする『パート保育士 琴美』です。 本シリーズはノンフィクションです。登場する人物、団体等は、当事務所及びパートナー の関与先企業様とは一切関係ありません。 なお、人事・労務管理に関する具体的なご相談につきましては、 労務管理からお申し込みいただきますよう、お願いいたします。
「ああ、裕子先生。ちょうどよかったわ。」慌てた様子で園長先生が、裕子先生を呼び止めます。 「園長先生。おはようございます。」何事かしら。不安げに挨拶をする裕子先生。 「麻里先生が、風邪で今日お休みするそうなの。よろしくお願いしますね。」 「そうですか・・・。」うわあ。まいった・・・・・・。よろしくお願いしますと言われても・・・ねえ・・・。 「裕子先生。休憩に入っていいですか。」琴美さんが尋ねます。 「えッ。もうそんな時間?!」 たいよう保育園では、給食が終わるとお昼寝の時間になります。お昼寝の時間は2時間ぐらい。この時間は、保育士の休憩時間でもあります。 といっても、お昼寝している園児を置いて、全保育士が一度に休憩するわけにはいきません。お昼寝している園児の安全のために付き添う先生、事務所の電話番をする先生、そして休憩する先生に分かれ、交替で1時間ずつ休憩しています。 「たいへんッ!麻里先生の代わりにお昼寝の園児に付き添わないと・・・。琴美先生。悪いけど事務所の電話番お願いッ!!」大急ぎで、麻里先生のクラスに行く裕子先生。 「圭吾先生、休憩に入ってください。麻里先生の代わりに、私が付き添いますから。」 「ああ、裕子先生。あやなちゃんが、なかなか眠れないみたいで・・・。」 圭吾先生が、心配顔で答えます。風邪でお休みした麻里先生に代わって、園児を寝かしつけていた圭吾先生。絵本を読んだりして、園児がスムーズにお昼寝に入れるよう、工夫していたのですが。 「やっぱり、麻里先生でないとダメみたいで・・・・・・。」 「大丈夫ですよ。私が相手をしますから。圭吾先生、外出届が出ていましたよね。休憩に入ってください。」 「ええ・・・。それでは、よろしくお願いします。」
「ごめん。ごめん。琴美先生、休憩に入ってちょうだい。」休憩を終えた圭吾先生と交替した裕子先生。事務所に戻り、今度は琴美先生と交替です。 「でも・・・。電話はかかってこなかったし・・・。休憩していたようなものだから。私、仕事に戻ります。」 「それじゃあ、困るの。ちゃんと、休憩してもらわないと困るのよ。」 「???」な・ん・で・エ?だって、私。ただ座っていただけなのに・・・。それって、休憩と同じ・・・だよね? 「あらあら。二人ともどうしたの。にらめっこ?」 「あっ、園長先生。休憩時間のことなんですけど・・・。」裕子先生とのやり取りを説明する琴美さん。素直に疑問をぶつけてみます。 「・・・そうね。体は休めたかもしれませんね。琴美先生、気持ちはどうでしたか?」琴美さんの話を笑顔で聞いていた園長先生が尋ねます。 「えッ?!気持ち・・・・・・。」 「そう。気持ち。いつ電話がかかってきても、きちんと応対できるように、少し緊張していたのではないかしら。いつもの琴美先生みたいに、お菓子を頬ばったりはできなかったのではないかしら。」 そういえば・・・・・・。休憩室での休憩みたいにはくつろげなかったわ。そうよ。休憩時間に食べようと思っていた新発売のぴり辛バナナ。まだ開けてもいない。 「気持ちまでは休まらなかったように思います。」琴美さんが答えます。 「そういうことです。電話番をしていた時間は、休憩時間とは違います。事務所には私がいますから、二人とも休憩に入ってくださいね。」 「それでは、よろしくお願いします。」笑顔を交わしながら、休憩に入る裕子先生と琴美さんでした。
休憩時間は、労働基準法第34条に規定されています。ポイントは次のとおりです。
全保育士が一度に休憩するわけにはいきません 休憩時間は、前記2の(2)にありますように、一斉に付与することを原則としています。ただし、これには2つの例外が認められています。 1つ目の例外は、事業の種類が次の(1)〜(8)のいずれかに該当する場合です。この場合は、一斉付与の原則が適用されませんので、特別な手続をすることなく、交替で休憩することができます(労働基準法施行規則第31条)。 (1)運輸交通業、(2)商業、(3)金融広告業、(4)映画・演劇業、(5)通信業、(6)保健衛生業、(7)接客娯楽業、(8)官公署 2つ目の例外は、労使協定において、「一斉に休憩を与えない労働者の範囲」と「一斉に休憩を与えない労働者に対する休憩の与え方」を定めた場合です(労働基準法第34条第2項)。 たいよう保育園は、1つ目の例外にある(6)の保健衛生業に該当しますので、休憩を一斉に付与する必要はありません。
交替で1時間ずつ休憩しています 「交替で」休憩することができるということは、既にご説明しました。 それでは、休憩時間の長さはどうでしょうか。時間外労働がない場合とあった場合とに分けて考えてみましょう。 まず、時間外労働がない場合。たいよう保育園の1日の所定労働時間は、法定労働時間と同じ「8時間」です。実労働時間が8時間までは、最低45分の休憩時間を付与すれば足りますから、それを上回る1時間の休憩時間を付与していますので、問題はないということになります。 次に、時間外労働があった場合。実労働時間が8時間を超えた場合の休憩時間は、最低60分です。最低基準の60分、すなわち1時間の休憩時間を付与していますので、この場合も問題はないということになります。
外出届が出ていましたよね たいよう保育園では、休憩時間中の外出について「届出制」を採用しているようですね。休憩時間の3つの原則にある「自由利用の原則」に反するのでは?と、疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。自由利用といっても、決して無制限という意味ではありません。 これに関して行政解釈では、「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を害わない限り差し支えない。」としています。休憩時間中であっても、始業時刻から終業時刻までの拘束時間中であることには変わりありません。 この点に関して、「使用者の事業所等の管理権に基づく労働者に対する行動規制は、休憩時間中であっても、管理権の合理的な行使として是認され得る範囲内にある限り、有効なものとして拘束力を有する。」とする判例もあります。 もし、たいよう保育園が休憩時間中の外出について「届出制」ではなく、「許可制」を採用していて、正当な理由なく外出を許可していないとしたら。「行き過ぎ」ということになり、適法とはいえないでしょう。
電話はかかってこなかったし・・・。休憩していたようなものだから。 電話番をしていた時間は、休憩時間とは違います。 結果的に電話がかかってこなかったとしても、電話番をしていた時間は休憩時間とはなりません。労働時間として扱い、賃金を支払う必要があります。 休憩時間とは、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいいます。したがって、電話番などのように、電話がないときは仕事をしないで休んでいるとしても、電話があればいつでも応対できるように待機している、いわゆる「手待時間」は、休憩時間とはなりません。
たいよう保育園のような保育所もそうですが、社会福祉施設、介護施設、病院、小売店など、広い意味で「人」を相手とする業種の事業主さんは、休憩時間に頭を悩ませていらっしゃるのではないでしょうか。 今回のお話では何とか、休憩時間を取ることができました。しかしこれが、突発事項で休んでしまった先生がもう1人いたり、長い苦情電話があったり、突然の来園者があったりなど、他にもハプニングがあったとしたら、裕子先生の休憩時間はなかったかもしれません。 その場合、法定どおりの休憩時間を付与しなかったという違反の事実はどうすることもできませんが、少なくとも休憩時間に労働させてしまった分の賃金は支払うべきです。
作成:平成16年12月19日