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ご利用者の皆さまへ

「女性と労働法」は、働く女性をテーマとした小説を労働法か
ら読んでみましょう
というものです。その内容は、ご利用者に対しいかなる意味においても、アドバイス
や特定の行動の推奨・禁止等を行うものではありません。
あくまで小説としてお楽しみください。
 シリーズ第1作目は、琴美さんを主人公とする『パート保育士 琴美』です。
本シリーズはノンフィクションです。登場する人物、団体等は、当事務所及びパートナー
の関与先企業様とは一切関係ありません。
 なお、人事・労務管理に関する具体的なご相談につきましては、
労務管理からお申し込みいただきますよう、お願いいたします。
パート保育士 琴美 〜 天使に包まれて 〜
著者:吉川 真生(よかわ まさき)

ナーサリー7 通勤災害のお話

 「もお。麻里先生。まだですかあ。急いでくださいよ〜。」何やら焦り顔の琴美さんが、麻里先生をせかします。
 「何なの。いったい。園児がマネするからバタバタしないの。」
「あッ、裕子先生。焦っちゃって、つい・・・・・・。すみません。気をつけます。」慌てて謝る琴美さん。いけない。いけない。裕子先生の言うとおりだわ。落ち着くのよ、琴美。
 「ははあ。また、合コンね。」
 「また・・・って、裕子先生。そんな。土足な・・・。傷つきますよ。」っていうか、バレてる・・・。合コンだって、バレてる・・・・・・。
 「裕子先生、参考までに1つ。私、今日の合コンのこと話しましたっけ?」
 「聞いていないわよ。聞いていないけど、だいたい想像つくわよ。ほら、お待ちかねの麻里先生が来たわよ。いいから、楽しんでいらっしゃい。お疲れさま。」
 「よかったあ。間に合う。裕子先生、お先に失礼します。」

  「私、なにがなんでも浩之くんですッ!!」合コン後半戦も終了間近。お決まりの作戦タイムinトイレ。琴美さんが、麻里先生に訴えます。
 「あん。そんなに気に入ったの?」麻里先生が尋ねます。今日の琴美先生、やけに真剣ねえ。私は、お気に入りもいなかったし。琴美先生を応援してあげよう・・・かなあ・・・・・・。
 「はい。マジです!片目ボレですッ!!」
 「か・た・め・ぼ・れ?それは何?かためは・・・片方の目ってこと?それとも・・・やわらかい硬いの硬め?それは・・・どんなホレ方???」初めて聞く単語にわけわかんない顔の麻里先生。琴美先生の目がすわっているのは真剣なんじゃなくて、もしかしたら酔っているだけ?
 「私ったら。ヤダ・・・。一目ボレです。ひ・と・め・ぼ・れ。片想いとゴッチャになっちゃった・・・・・・。」
 「ああ。一目ボレ・・・。だったら、浩之くんも同じ電車みたいよ。琴美先生が、浩之くんと一緒に帰れるように援護射撃してあげる。」
 「ホントですか!?」心の中でガッツポーズをする琴美さん。ああ。麻里先生って、なんていい人なの。もお、ゼッタイ浩之くんと一緒に帰らなくちゃ。

  「琴美ちゃん、保育士なんだって。子どもが好きな女の子ってイイよね。」浩之くんと二人、改札口を通る琴美さん。浩之くんの言葉に、舞い上がりっぱなしです。
 「うわあ。エスカレーター混んでいるねえ。階段で降りようか。」
 「はい。終電近い時間って、ホント混みますね。」ちょっと、飲みすぎちゃったな。エスカレーターで降りたいって言って、オバっぽいって思われたくないし。どうせ階段で降りるなら、よろけたフリして腕につかまっちゃったりして・・・。
 「えッ!?きゃあ〜!!」浩之くんが、手を差し伸べる間もなく、階段を転げ落ちていく琴美さん。
 「琴美・・・ちゃん。」

  「どおしたの。その足。」琴美さんの足首の包帯に気づいた裕子先生。心配した様子で尋ねます。
 「はああ〜。裕子先生、おはようございます。火曜日の合コン。帰りに駅の階段から落ちちゃいました。」あ〜あ。私って、酔うと足にくるのよねえ。なんで、エスカレーターにしましょって言わなかったんだろう。もお、琴美のバカ!バカ!
 「病院は?行ったの?」
 「はい。軽い捻挫だそうです。1週間ぐらいで治るって言われました。あっ、園長先生。おはようございます。」
 「琴美先生、裕子先生、おはようございます。」
 「園長先生、おはようございます。そういえば、琴美先生。病院では、どうしたの?通勤災害って、健康保険は使えないはずよ。まさか、保険証を出したりしていないでしょうね。」
 「えっ!?保険証・・・出しました・・・・・・。」琴美さんが答えます。
 「裕子先生。琴美先生は、通勤途中にケガをしたのですか。」園長先生が、裕子先生に尋ねます。
 「実は・・・火曜日の帰りに・・・。」琴美さんが、合コン帰りの一件を園長先生に報告します。
 「それは、たいへんでしたね。軽い捻挫だからといって、ムリをしないように。そういうことでしたら、今回のケガは通勤災害にはなりませんね。」
 「どうしてですか。園長先生。」裕子先生が、園長先生に尋ねます。
 「そうですね。確かに、琴美先生は火曜日に出勤しました。でも、勤務を終えて、いつもどおり真っ直ぐには帰っていませんね。合コンに参加して、その帰りにケガをしました。だからです。」さっぱり意味がわからないという表情で、二人が園長先生を見つめます。
 「琴美先生は、いつもの通勤経路からはずれてプライベートを楽しんだ帰りにケガをしたということです。琴美先生。火曜日が公休日でしたら、合コンには行きませんでしたか。」園長先生が、琴美さんに尋ねます。
 「そんなあ。公休日でも行きました。」琴美さんが答えます。
 「琴美先生は、勤務に関係なく、合コンに参加するおつもりだった。少し難しい言い方になりますが、琴美先生が合コンから帰るという行動は、勤務のためではなくて、合コンに参加したためにする行動だと、法律では考えるのですよ。ですから、合コンの帰り道にしたケガは通勤災害にはなりません。」園長先生の説明に、二人がうなずきます。
 「園の行き帰りは、なんでも通勤災害になると誤解していました。」納得した様子で、裕子先生が言います。
 「さあ、そろそろ園児が登園する時間ですよ。」
 「はい。」「はい。」登園準備を始める裕子先生と琴美さんでした。

『パート保育士 琴美』を労働法から読むとどうなる? 社会保険労務士  山口 由里子
 
 本コーナー「労働法から読むとどうなる?」の内容は、執筆時点における法令その他に基づいて作成しております。したがって、法律の改正や新判例等により正確でなくなる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
 なお、執筆時は、本コーナーの最後に作成日として標記されます。

通勤災害  

通勤災害は、労働者災害補償保険法第7条第1項第1号で、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」と定義づけられています。この定義を分解しますと、次の3つの要件となります。

(1)
災害を被った人が労働者であること
(2)
通勤途上に発生した災害であること
(3)
負傷、疾病、障害又は死亡したこと
 
通勤災害って、健康保険は使えないはずよ。
 健康保険は、労働者の業務外の病気やケガなどに関して、保険給付を行うことを目的とする医療保険です(健康保険法第1条)。したがって、業務上や通勤途上に関する給付を行う他の保険(たとえば、労災保険)から給付を受けることができる場合は、健康保険の給付は行われません(健康保険法第55条第1項)。
 
琴美先生は、通勤途中にケガをしたのですか。
園の行き帰りは、なんでも通勤災害になると誤解していました。
 通勤災害の要件の1つに、「通勤途上に発生した災害であること」という要件がありました。そもそも、「通勤」とはどういう行為をいうのでしょうか。
通勤は、労働者災害補償保険法第7条第2項で、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」と定義づけられています。この定義を分解しますと、次の4つの要件となります。
(1)
往復が、業務に就くため、または業務を終えたことにより行われること
(2)
住居と就業の場所との間であること
(3)
合理的な経路および方法により往復すること
(4)
業務の性質を有していないこと
決して、「園の行き帰りであれば、なんでも」というわけでは、ありません。
 
勤務を終えて、いつもどおり真っ直ぐには帰っていませんね。
合コンに参加して、その帰りにケガをしました。
いつもの通勤経路からはずれてプライベートを楽しんだ帰りにケガをした
 通勤と認定されるためには、「住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法により往復」することが必要でしたね。この「合理的な経路」とは、一般に労働者が用いると認められる経路をいいます。たとえば、琴美さんが、たいよう保育園に届け出ている公共交通機関を利用する経路などが、これに当たります。
 琴美さんのように、合コンに参加するために、合理的な経路(つまり、いつもの通勤経路)からはずれる行為を法律上は「逸脱」といいます。原則として、合理的な経路を逸脱したり、たとえ合理的な経路上であっても、往復を中断した場合は、逸脱や中断の間とその後の往復は、通勤とはなりません(労働者災害補償保険法第7条第3項)。
 
琴美先生が合コンから帰るという行動は、勤務のためではなくて、合コンに参加したためにする行動
 合理的な経路を逸脱したことにより、通勤の要件の1つである「往復が業務を終えたことにより行われること」というよりは、逸脱の目的のために行われたと考えられるからです。
 たとえば、琴美さんが、たいよう保育園からの帰り道でコンビニに寄り、日用品を買った場合なども同様に、通勤とは認められなくなってしまうのでしょうか。それでは、あまりにも杓子定規な解釈という気がしますね。これについては、通勤の実態を考慮して、「逸脱または中断が、日常生活上必要な行為であって、やむを得ない事由により行うための最小限度のもの」である場合は、その逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は、通勤と認められることとされています(労働者災害補償保険法第7条第3項)。
「日常生活上必要な行為」の具体例としては、次のようなものがあります。
(1)
日用品購入のために、通勤経路上にあるスーパーに立ち寄る場合
(2)
通勤経路上にあるクリーニング店に立ち寄る場合
(3)
一人暮らしの労働者が、いつもどおり定食屋で夕飯を食べる場合
(4)
通勤経路上にある美容院に立ち寄り、髪をカットする場合
 
 
 通勤災害の定義を中心にご説明させていただきました。実務では、実際に発生した災害について、「労災になりますか。」とのご質問を受けることもあります。被災された方のお気持ちを考えますと、「Yes」か「No」かのお答えを差し上げ、少しでも安心していただければと思うのですが、なかなか難しいのが現実です。
 実際に、通勤災害(もちろん、業務災害も)の認定を行うのは、所轄の労働基準監督署長ですし、その認定基準も、改正を重ねています。たとえば、以前はなかなか業務災害と認定されなかった自殺や精神疾患で業務災害と認定される例も増えてきています。これも、より通勤(または業務)の実態を考慮した認定をと関係者の方々が考えられ、努力された結果かと思います。

作成:平成17年4月30日

 
バックナンバー
第1回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第2回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第3回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
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 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第5回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
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