ご利用者の皆さまへ 「女性と労働法」は、働く女性をテーマとした小説を労働法から読んでみましょう というものです。その内容は、ご利用者に対しいかなる意味においても、アドバイス や特定の行動の推奨・禁止等を行うものではありません。 あくまで小説としてお楽しみください。 シリーズ第1作目は、琴美さんを主人公とする『パート保育士 琴美』です。 本シリーズはノンフィクションです。登場する人物、団体等は、当事務所及びパートナー の関与先企業様とは一切関係ありません。 なお、人事・労務管理に関する具体的なご相談につきましては、 労務管理からお申し込みいただきますよう、お願いいたします。
「はあ〜。」自分のタメ息にも気づかず、浮かない顔で遠くを見つめる琴美さん。 「なあに。朝からタメ息なんか。琴美先生らしくないわねえ。今日はレストランごっこの日よ。オヤジ会のお父さん方もお招きした大事な日なのに・・・・・・ったく。さあ。笑って仕事!仕事ッ!!」気合いダぁ〜!!とばかりに、裕子先生が言葉を投げます。 「すみません。急いで準備をします。」まいったなあ・・・。裕子先生に相談し損ねちゃった・・・・・・。 たいよう保育園では毎月1回、「ごっこの日」があります。今月は、レストランごっこの日。4、5才児クラスのおにいさん・おねえさん達が調理師さんの作った料理を盛り付け、3才児クラスがテーブルの準備。1、2才児クラスがお客様となって、皆んなで一緒に会食します。 今日のメニューはサンドイッチ、白身魚のフリッター、野菜の塩ゆで、梨です。おいしそうな盛り付けに皆んなの食も進みます。 「ここに来ると、何だかヤル気が出てくるんだよね。ほら、大人になると仕事がらみの知り合いばかりじゃない。こんな風に、仕事や年齢も違う仲間と過ごすって、中々ないじゃないですか。子どものおかげだなって。そう思いませんか。」いつものように、お父さん方相手に語るゆみちゃんのお父さん。 「ぱぱ。おしゃべりはいけないでしゅよ。しゃんと、しずかにたべてくだしゃい。」ゆみちゃんが、マセた口調でお父さんを叱ります。 「ごめん。ごめん。そうだね。ゆみの言うとおりだね。」ゆみちゃん親子の会話に爆笑が起こります。 「ことみせんせい、わらわない。りこ、いっしょうけんめいやったのに。おいしくないの。」 「ごめんね。りこちゃん。すご〜くオイシイわ。ありがとう。」慌てて笑顔を作る琴美さん。 「きょうのことみせんせい、くらやみのひとみたい。」りこちゃんの言葉にハッとする琴美さん。ああ〜。私ったら。保育士失格だわ。園児の前で他のこと考えるなんて・・・。 「いったい何があったの。琴美先生の取り得は元気なんだからッ。それなのに、今日の琴美先生ときたら。どうしたらそこまで暗くなれるの。言ってみなさい。」琴美先生の様子をずっと気にしていた裕子先生。ついつい口調もキツくなります。 「すみません・・・。私・・・やっぱりクビ・・・ですか・・・・・・。」 「バカね。今日1日暗かったぐらいでクビにならないわよ。」 「いえ。すみません。今日のことじゃなくて・・・・・・。そのお・・・私・・・・・・。できちゃったんです・・・。」 「へッ?! 何が?」琴美さんの予想外の言葉に、面食らう裕子先生。 「いや・・・。なんていうか・・・赤ちゃんが・・・。」 「はあ。誰に?」 「誰にってェ。私に・・・です。やっぱり・・・できちゃった結婚って・・・クビ・・・ですか。」言っちゃった・・・。ああ、でも。スッキリした。 「ああ・・・。」ようやく事態をのみ込めた裕子先生。 「できちゃった結婚ということは・・・生むのね。結婚もするのよね。」 「もちろんですッ。」もお。裕子先生ったら。心外だわ・・・。 「そお。私は・・・なんていうか・・・・・・。まあ。順番どおりだったから・・・よくわからないけど・・・・・・。とにかく。園長先生に相談・・・ううん。報告が先・・・でしょ。言いにくいのなら、私も一緒に言ってあげるけど。」 「いえ。大丈夫です。裕子先生と話していたら、覚悟ができました。1人で話してきます。」 「そお・・・。」琴美先生の背中を心配そうに見つめる裕子先生。ほんとうに大丈夫かしら・・・・・・。 「本当ですか。」自分のことのように、琴美さんを心配していた裕子先生。帰るに帰れず、報告から戻ってくる琴美さんをずっと事務所で待っていました。話を終えた琴美さんが、園長先生と事務所に戻ってきて・・・・・・。 「本当に、本当ですね。本当なんですよね。」園長先生の説明に、何度も念を押す裕子先生。 「ええ。本当です。妊娠したからといって、琴美先生が解雇になることはありません。」園長先生の言葉に、ホッと胸をなでおろす裕子先生。 「男女雇用機会均等法という法律もありますしね。もう、そんな時代ではありません。ただ・・・結婚より妊娠が先ということについて、いろいろおっしゃるご父兄の方はいらっしゃるかもしれませんね。大切なことは、琴美先生がどういうお母さんになって、それを今後の保育にどう生かしていくかだと私は考えています。きっと琴美先生は、いい保育士になって戻ってくると思いますよ。」 「そおなの。保育士、辞めないのね。戻ってくるのね・・・。良かったあ・・・・・。」確かめるように裕子先生の口から言葉がこぼれます。 「はい。そういうことで、裕子先生。今後とも、よろしくお願いします。」ちょっぴり照れくさそうに琴美さんが言います。 「それはそうと、相手は誰なのよ。まだ、聞いていないんだけど。」 「いや。それは・・・ねえ。いッけない。バスの時間。それでは、お先に失礼します。」裕子先生の質問から逃げるように帰り支度をする琴美さんでした。
妊娠を理由とする解雇は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「男女雇用機会均等法」といいます。)第8条第3項で禁止されています。
作成:平成17年9月19日