お問い合せ

 
 

ご利用者の皆さまへ

「女性と労働法」は、働く女性をテーマとした小説を労働法か
ら読んでみましょう
というものです。その内容は、ご利用者に対しいかなる意味においても、アドバイス
や特定の行動の推奨・禁止等を行うものではありません。
あくまで小説としてお楽しみください。
 シリーズ第1作目は、琴美さんを主人公とする『パート保育士 琴美』です。
本シリーズはノンフィクションです。登場する人物、団体等は、当事務所及びパートナー
の関与先企業様とは一切関係ありません。
 なお、人事・労務管理に関する具体的なご相談につきましては、
労務管理からお申し込みいただきますよう、お願いいたします。
パート保育士 琴美 〜 天使に包まれて 〜
著者:吉川 真生(よかわ まさき)

ナーサリー9 妊娠を理由とする解雇のお話

 「はあ〜。」自分のタメ息にも気づかず、浮かない顔で遠くを見つめる琴美さん。
 「なあに。朝からタメ息なんか。琴美先生らしくないわねえ。今日はレストランごっこの日よ。オヤジ会のお父さん方もお招きした大事な日なのに・・・・・・ったく。さあ。笑って仕事!仕事ッ!!」気合いダぁ〜!!とばかりに、裕子先生が言葉を投げます。
 「すみません。急いで準備をします。」まいったなあ・・・。裕子先生に相談し損ねちゃった・・・・・・。

 たいよう保育園では毎月1回、「ごっこの日」があります。今月は、レストランごっこの日。4、5才児クラスのおにいさん・おねえさん達が調理師さんの作った料理を盛り付け、3才児クラスがテーブルの準備。1、2才児クラスがお客様となって、皆んなで一緒に会食します。
 今日のメニューはサンドイッチ、白身魚のフリッター、野菜の塩ゆで、梨です。おいしそうな盛り付けに皆んなの食も進みます。
 「ここに来ると、何だかヤル気が出てくるんだよね。ほら、大人になると仕事がらみの知り合いばかりじゃない。こんな風に、仕事や年齢も違う仲間と過ごすって、中々ないじゃないですか。子どものおかげだなって。そう思いませんか。」いつものように、お父さん方相手に語るゆみちゃんのお父さん。
 「ぱぱ。おしゃべりはいけないでしゅよ。しゃんと、しずかにたべてくだしゃい。」ゆみちゃんが、マセた口調でお父さんを叱ります。
 「ごめん。ごめん。そうだね。ゆみの言うとおりだね。」ゆみちゃん親子の会話に爆笑が起こります。
 「ことみせんせい、わらわない。りこ、いっしょうけんめいやったのに。おいしくないの。」
 「ごめんね。りこちゃん。すご〜くオイシイわ。ありがとう。」慌てて笑顔を作る琴美さん。
 「きょうのことみせんせい、くらやみのひとみたい。」りこちゃんの言葉にハッとする琴美さん。ああ〜。私ったら。保育士失格だわ。園児の前で他のこと考えるなんて・・・。

  「いったい何があったの。琴美先生の取り得は元気なんだからッ。それなのに、今日の琴美先生ときたら。どうしたらそこまで暗くなれるの。言ってみなさい。」琴美先生の様子をずっと気にしていた裕子先生。ついつい口調もキツくなります。
 「すみません・・・。私・・・やっぱりクビ・・・ですか・・・・・・。」
 「バカね。今日1日暗かったぐらいでクビにならないわよ。」
 「いえ。すみません。今日のことじゃなくて・・・・・・。そのお・・・私・・・・・・。できちゃったんです・・・。」
 「へッ?! 何が?」琴美さんの予想外の言葉に、面食らう裕子先生。
 「いや・・・。なんていうか・・・赤ちゃんが・・・。」
 「はあ。誰に?」
 「誰にってェ。私に・・・です。やっぱり・・・できちゃった結婚って・・・クビ・・・ですか。」言っちゃった・・・。ああ、でも。スッキリした。
 「ああ・・・。」ようやく事態をのみ込めた裕子先生。
 「できちゃった結婚ということは・・・生むのね。結婚もするのよね。」
 「もちろんですッ。」もお。裕子先生ったら。心外だわ・・・。
 「そお。私は・・・なんていうか・・・・・・。まあ。順番どおりだったから・・・よくわからないけど・・・・・・。とにかく。園長先生に相談・・・ううん。報告が先・・・でしょ。言いにくいのなら、私も一緒に言ってあげるけど。」
 「いえ。大丈夫です。裕子先生と話していたら、覚悟ができました。1人で話してきます。」
 「そお・・・。」琴美先生の背中を心配そうに見つめる裕子先生。ほんとうに大丈夫かしら・・・・・・。

 「本当ですか。」自分のことのように、琴美さんを心配していた裕子先生。帰るに帰れず、報告から戻ってくる琴美さんをずっと事務所で待っていました。話を終えた琴美さんが、園長先生と事務所に戻ってきて・・・・・・。
 「本当に、本当ですね。本当なんですよね。」園長先生の説明に、何度も念を押す裕子先生。
 「ええ。本当です。妊娠したからといって、琴美先生が解雇になることはありません。」園長先生の言葉に、ホッと胸をなでおろす裕子先生。
 「男女雇用機会均等法という法律もありますしね。もう、そんな時代ではありません。ただ・・・結婚より妊娠が先ということについて、いろいろおっしゃるご父兄の方はいらっしゃるかもしれませんね。大切なことは、琴美先生がどういうお母さんになって、それを今後の保育にどう生かしていくかだと私は考えています。きっと琴美先生は、いい保育士になって戻ってくると思いますよ。」
 「そおなの。保育士、辞めないのね。戻ってくるのね・・・。良かったあ・・・・・。」確かめるように裕子先生の口から言葉がこぼれます。
 「はい。そういうことで、裕子先生。今後とも、よろしくお願いします。」ちょっぴり照れくさそうに琴美さんが言います。
 「それはそうと、相手は誰なのよ。まだ、聞いていないんだけど。」
 「いや。それは・・・ねえ。いッけない。バスの時間。それでは、お先に失礼します。」裕子先生の質問から逃げるように帰り支度をする琴美さんでした。

『パート保育士 琴美』を労働法から読むとどうなる? 社会保険労務士  山口 由里子
 
 本コーナー「労働法から読むとどうなる?」の内容は、執筆時点における法令その他に基づいて作成しております。したがって、法律の改正や新判例等により正確でなくなる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
 なお、執筆時は、本コーナーの最後に作成日として標記されます。

妊娠を理由とする解雇  

 妊娠を理由とする解雇は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「男女雇用機会均等法」といいます。)第8条第3項で禁止されています。

 
妊娠したからといって、琴美先生が解雇になることはありません
 男女雇用機会均等法第8条第3項では、女性労働者が、1)結婚し、2)妊娠し、3)出産し、4)産前産後休業をしたことを理由とする解雇を禁止しています。
 この場合の出産とは、妊娠4カ月以上の出産をいい、死産や妊娠中絶も含みます。たとえば、琴美さんが妊娠4カ月以上で妊娠中絶をしてしまい、そんな琴美さんを子どもの大スキな園長先生が許せずに解雇してしまったら・・・やはり、男女雇用機会均等法第8条第3項違反の問題が生じるでしょう。

 今回のテーマと少し似た裁判例があります。幼稚園の教諭が、未入籍のまま妊娠しました。これに対して園長が、幼稚園の評判を落とすということで、非難や退職強要、そして、解雇を行ったというものです。
 これは、男女雇用機会均等法第8条に反する違法な行為であるとして、幼稚園と園長は、連帯して不法行為責任を負うとされました(大阪地裁堺支部平成14.3.13)。
 
男女雇用機会均等法という法律もありますしね。もう、そんな時代ではありません
 男女雇用機会均等法は、昭和61年(平成の時代を迎える数年前ですね)に施行された法律です。「勤労婦人福祉法」という法律が前身となっています。
 男女雇用機会均等法が施行される前は、いわゆる女子の結婚・出産退職制等は、憲法第14条(法の下の平等)や民法第90条(公序良俗違反の法律行為)の趣旨にのっとり行政指導が進められていました。
 男女雇用機会均等法の施行によって、法律上の明確な根拠が与えられたわけです。

 その後、平成11年4月1日に改正男女雇用機会均等法が施行されました。それまで、均等な取扱いが努力規定であった「募集、採用」及び「配置、昇進」が差別禁止規定となり、一部差別禁止規定であった「教育訓練」が全面差別禁止規定となりました。
 これによって、募集・採用から退職までの全ステージでの差別が禁止となったわけです。真の男女平等は、ここから始まったのかもしれません。
 参考までに、労働基準法に規定されていた女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制が撤廃されたのも、この年です。


 昭和と平成とでは、女性の働き方が大きく変化したように感じます。結婚や妊娠を退職の機会と考える女性が少なくなったというのが実感です。社会保険の給付を上手に利用し、働きながら子どもを育てる女性が増え、頼もしいなあと思います。
 せっかくの法律も、本人のちょっとした言動で台無しとなってしまいます。妊娠の職場への報告。今回のお話の琴美さんは、あまり褒められる報告ではなかったですね。少なくとも、次のポイントを押さえた報告を心がけたいものです。
 (1)早めに職場に報告を
 (2)引継ぎや産休のスケジュールを自分の中で組み立ててから報告
 (3)まずは上司に報告
 (4)取引先への報告は上司と相談して
 特に、(3)には気をつけてください。上司に報告する前に、仲の良い同僚に話してしまう、最も避けたいパターンです。報告よりも先にウワサ話で部下の妊娠を知るのでは、上司もいい気持ちはしません。まずは上司に報告、それが職場でのマナーではないでしょうか。
 

作成:平成17年9月19日

 
バックナンバー
第1回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第2回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第3回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第4回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第5回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第6回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第7回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第8回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第9回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
第10回
 「パート保育士 琴美〜 天使に包まれて 〜」
 
   

山口社会保険労務士事務所「神奈川県社会保険労務士会所属」
2004 Copyright. All rights reserved. Yamaguchi Personal Management of Social Insurance <Copyight